がんと検査方法

今は元気でも、がんが見つかり、2-3年後には亡くなる人がいます。

直近の死亡・罹患データと人口推計より推計された2023年のがん罹患数予測および死亡数予測の結果を見てみましょう。

がん罹患数予測(2023年)

男性
部位 罹患数
全がん 589,200
   
前立腺 98,600
大腸 90,700
89,100
88,200
肝臓 26,600
膵臓 23,300
食道 22,300
腎・尿路(膀胱除く) 21,400
悪性リンパ腫 20,000
膀胱 18,600
口腔・咽頭 16,800
皮膚 13,800
胆のう・胆管 12,800
白血病 8,600
甲状腺 4,900
喉頭 4,800
多発性骨髄腫 4,300
脳・中枢神経系 3,200
乳房 700
女性
部位 罹患数
全がん 444,600
   
乳房 97,300
大腸 70,400
43,800
40,800
子宮 29,100
膵臓 22,700
悪性リンパ腫 17,800
甲状腺 13,800
卵巣 13,400
皮膚 13,200
肝臓 12,700
胆のう・胆管 10,900
腎・尿路(膀胱除く) 10,200
口腔・咽頭 7,400
膀胱 6,300
白血病 6,000
食道 4,800
多発性骨髄腫 3,700
脳・中枢神経系 2,800
喉頭 400

検査方法について、医療法人社団あんしん会 四谷メディカルキューブの説明を見てみます。

国が推奨するがん検診の一覧
種類 検査項目 対象年齢 受診間隔
胃がん検診 問診および、胃部X線検査※1または胃内視鏡検査のいずれかを選択 50歳以上 (いずれか一方を)
2年に1回
大腸がん検診 問診および便潜血検査(免疫法) 40歳以上 1年に1回
肺がん検診 問診※2および胸部X線検査および喀痰細胞診※3 40歳以上 1年に1回
乳がん検診 問診※2および、マンモグラフィ
※視診・触診の単独実施は推奨しない
40歳以上 2年に1回
子宮頸がん検診 問診、視診、子宮頸部の細胞診および内診 20歳以上 2年に1回

※1当分の間、胃部X線検査については40歳以上、1年に1回の実施も可とされています。
※2肺・乳がん検診の問診では必ずしも医師が対面で聴取する必要はなく、自記式の質問用紙に記入することで問診の代わりとしてよいことになっています。
※3喀痰細胞診の対象は、50歳以上で、喫煙指数(1日本数×年数)が600以上の方です。
出典 厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」
厚生労働省「職域におけるがん検診に関するマニュアル」

(1)がん検診の利益

がん検診の主な利益は、標的とするがんによる死亡を防ぐことです。そのほか、早期発見により治療が軽度ですむこと、本当にがんがない人が検診で「異常なし」と診断されることで安心して生活できることも利益です。

子宮頸がん検診と大腸がん検診では、がんだけではなく、がんになる前の病変も見つけて治療することにより、がんになることを防ぎます。また、その結果としてがんで亡くなることを防ぎます。

(2)がん検診の不利益

がん検診の主な不利益は、偽陰性、偽陽性、過剰診断、偶発症です。がん検診を受診した人はどなたでも、これらの不利益を受ける可能性があります。

偽陰性

実際にはがんがあるのに、精密検査が不要と判定されることです。その結果、がんの治療が遅れます。がんは発生してから一定の大きさになるまでは発見できませんので、1回の検診で確実に見つかるとは限りません。そのため、がん検診は1回だけではなく、適切な間隔で定期的に受け続けることが大事です。

偽陽性

実際にはがんがないのに、がんの疑いあり(精密検査が必要)と判定されることです。それにより、本来受ける必要のない精密検査(医療行為)で心身に負担がかかります。また、精密検査で問題ないことが判明するまで、不安な日々を過ごすことになります。

がん検診の仕組みは、まずがんの疑いがある人(精密検査が必要な人)を広く拾い上げ、その中からがんがある人を診断するシステムですので、偽陽性をゼロにすることはできません。

図2 がん検診受診者1万人の結果の内訳
図2 がん検診受診者1万人の結果の内訳
*子宮頸がん+CIN3(高度異形成・上皮内がん)は14人
出典 厚生労働省、2019年度「地域保健・健康増進事業報告」

過剰診断

命に別条のないがん(成長スピードが極めて遅いなどの理由により、治療をしなくても命を脅かさないがん)を検診で発見することです。発見したがんが本当に治療しなくてもよいかを正確に識別することは難しいため、(本当は過剰診断であったとしても)治療が行われます。その結果、本来不要な治療により、身体的、心理的、経済的負担がかかります。

偶発症

検診や精密検査での医療行為による合併症を指します。例として、内視鏡による出血や穿孔せんこう、バリウムの誤嚥ごえんや腸閉塞へいそく、放射線被ばくなどがあります。また出血や穿孔により、極めてまれですが、死亡に至ることがあります。

2)がん検診は適切な年齢、および適切な受診間隔で受けましょう

検診の利益と不利益のバランスに基づいて、国は「表1 国が推奨するがん検診の一覧」の対象年齢と受診間隔を推奨しています。

表1より若い年代ではがんにかかる人が少なく、有効性も確認されていないため、がん検診の利益より不利益が大きくなります。必ず表1の年齢に達してからがん検診を受診してください。

1回のがん検診ですべてのがんが確実に見つかるとは限りませんので、がん検診は定期的に受けることが大事です。ただし、必要以上に間隔を詰めて多く受診しても、検診の利益はあまり増えないものの、検診回数の増加とともに不利益はどんどん大きくなります。必ず表1の適切な間隔で受診してください。

3)科学的根拠が明確でないがん検診の考え方

現時点で「表1 国が推奨するがん検診の一覧」にない検診項目は、がんで亡くなることを防ぐ科学的根拠が不明、または現在検討中で結論が出ていないため、国は推奨していません。

これらの検診を受診することで、がんで死亡することを防げるという利益があるかどうかはまだ分かっていません。一方で、偽陰性、偽陽性、過剰診断、偶発症といった不利益は必ず一定の割合で起こります。「多少の不利益は我慢しても、がんを確実に見つけることを優先したい」と思われるかもしれませんが、検診では偽陰性の可能性が必ずありますので、確実にがんが見つけられるとは限りません。

職場によっては定期健康診断等に人間ドックが付加され、オプション項目として、高性能の検査機器や最先端の技術(CT、PET、腫瘍マーカーなど)を使った検査が選べるようになっています。これらはがんの再発や転移を調べるための検査としては大変重要ですが、がん検診としての効果(がん死亡を減らす効果が確実、かつ、利益が不利益を上まわる)は認められていません。最近では、血液や尿からがんのリスクを調べる新たな検査法も開発されていますが、がん検診としての効果はまだ十分に検証されていません。また、これらの検査が異常値となったあとにどう行動すればよいかの流れが明確に示されていません。