いよいよ始まる日本銀行の出口戦略

NHKの報道です。


日銀 高田審議委員 2%の物価安定目標「実現 見通せる状況に」

2024年2月29日 16時56分

日銀の金融政策を決める9人のメンバーの1人、高田創審議委員が大津市で講演し、2%の物価安定目標について「実現がようやく見通せる状況になってきた」と述べたうえで、マイナス金利政策の解除など大規模な金融緩和策の転換に向けた検討が必要だという考えを示しました。

この中で高田委員は、日銀が目指す2%の物価安定目標について「実現がようやく見通せる状況になってきた。物価上昇に対応した持続的な賃金上昇による好循環や、賃金や物価は上がらないものという考え方が転換する変曲点を迎えている」と述べました。

そのうえで金融政策について「極めて強い金融緩和からのギアシフト、例えばマイナス金利の解除など出口への対応も含めた検討も必要と考えている」と述べ、大規模な金融緩和策の転換に向けた検討が必要だという考えを示しました。

市場では、日銀が17年ぶりの利上げにあたるマイナス金利の解除に踏み切る時期は近いという見方が広がっていて、日銀の判断が注目されています。

高田委員は、講演のあとの記者会見で、来月の金融政策決定会合に臨む姿勢を問われたのに対し「どういう判断をするかはその場で考える。ただ、2%物価目標の実現がある程度、視野に入り達成できるような状況にある。賃金をベースとして好循環に対応をしていこうという動きや世の中の空気が、1年前や半年前と比べ、かなりできてきている」と述べました。


日銀の正常化に向けて、Bloombergの記事を読んで見ましょう。


日銀正常化、保有国債の圧縮表明で財政ファイナンス回避を-山本元理事

  • 新規購入停止でも正常化に9年、景気悪化で政治から再び購入圧力も

  • 出口局面で一時的に債務超過も、大幅円安と物価上昇の可能性に警鐘

日本銀行元理事の山本謙三氏は、日銀が金融政策を正常化する局面で、保有国債を圧縮する方針や計画を早めに表明することが重要との見解を示した。政治圧力などで残高削減が進まなければ、事実上の財政ファイナンスへの懸念が一段と強まる可能性があるとみている。

山本氏は国債買い入れで肥大化した日銀当座預金について、所要準備額を若干上回る平時の水準に引き下げるには、新規購入を停止しても9年程度はかかると試算。正常化局面で想定される金利変動や政治との関係を踏まえれば、9年間も国債買い入れを行わないこと自体が「非常にハードルが高い」とした上で、「なし崩し的に保有国債の残高が維持される可能性がある」と語った。4日にインタビューした。

  日銀は大規模国債買い入れは2%物価目標を実現するためと説明してきたが、正常化の際に残高を圧縮できないのであれば「財政ファイナンスということになる」という。政治に財政再建への意志が見えない中、景気が悪化する状況では再び日銀への国債購入圧力が強まると予想。そうした事態を回避するには、残高圧縮の方針を早めに示すことが「量的緩和に手を染めた中央銀行として当たり前のことだ」と述べた。

  植田和男総裁らの地ならしとも取れる発言を受けて、3月か4月の金融政策決定会合でマイナス金利が解除されるとの観測が強まっている。総裁は解除後も「緩和的な金融環境が当面続く」とする一方、山本氏がスタンスを明確にするよう提言した保有国債残高やバランスシートの取り扱いには言及しておらず、正常化局面での注目点の一つになりそうだ。

日米欧中央銀行のバランスシートの対GDP比

  山本氏は日銀が保有国債に関する方針を示す効果について、「市場に事前に織り込ませることによって不測の金利変動を避けることと、政治や社会が過度に日銀の国債購入に期待するのを回避することがある」との見方を示した。

  大規模緩和の長期化に伴い、日銀が保有する国債残高は名目国内総生産(GDP)に匹敵する600兆円規模に達し、国債発行残高の過半を占める。日銀のバランスシートの対GDP比は、米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)の水準を大きく上回る。FRBは2022年6月以来、保有資産を縮小しており、ピーク時の約9兆ドルから1兆ドル以上減っている。

  内田真一副総裁は2月8日の記者会見で、大規模緩和の修正段階のバランスシートについて問われ、「その時に適切な判断をしていくということになる」とした上で、「この時点でそれは決まっていない」と述べた。

  一方、大規模緩和からの出口局面では、日銀当座預金への付利の引き上げによって支払利息が増加し、日銀の財務が一時的に赤字や債務超過に陥る可能性がある。


マイナス金利解除「4月しかない」、包括的な判断可能-門間氏

  • 短観や展望リポートなど公表、日銀のコミュニケーションと整合的

  • 解除後の年内利上げ「0.25%への1回」、賃上げ5%なら2回以上も

元日本銀行理事の門間一夫みずほリサーチ&テクノロジーズ・エグゼクティブエコノミストは、日銀がマイナス金利解除に踏み切るのは3月ではなく、4月の金融政策決定会合になるとの見解を示した。

門間氏は29日のインタビューで、経済・物価情勢をしっかり点検した上で政策修正を行うという日銀のコミュニケーションとの整合性を考えると、「4月しかない、3月はあり得ない」と語った。

  4月に四半期ごとの全国企業短期経済観測調査(短観)や経済・物価情勢の展望(展望リポート)、支店長会議のほか、半年に1回の金融システムリポートの公表もあり、「1年で最も点検作業が多い月」と指摘。金融情勢も全て点検し、「最も包括的なジャッジメントができる」という。

  市場では3月か4月の会合でのマイナス金利解除の観測が強まっている。高田創審議委員が29日の講演で、政策正常化に前向きな発言をしたことから、3月にも実施するとの見方が広がった。一方で門間氏は、包括的な判断や市場との対話の観点から4月が適切との立場を明確にした。

  植田和男総裁は29日(現地時間)、ブラジル・サンパウロで開催された20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で、2%の物価目標実現が見通せる状況には至ってないとの認識を示した。春闘が確認作業の大きなポイントとも指摘し、発言を受けた為替市場は円安に反応。債券市場では先物価格が上昇している。

追加利上げは年内1回

  門間氏は、現時点でのサービス価格の動向を踏まえると、マイナス金利解除後の年内の利上げは「最大限0.25%への1回だけ」と予想。場合によっては1回もできずに、年末まで0-0.1%の状態が続く可能性も十分にあるとみている。

  足元で1ドル=150円前後で推移している為替相場に関しては、主に米国の金融政策に左右されると指摘。米国は6月ごろから利下げに転じるとみており、年内に3、4回実施した場合は、年後半に140円程度まで円高が進む可能性が十分にあるとしている。

  門間氏は、昨年10-12月期の実質国内総生産(GDP)速報値が2四半期連続のマイナス成長となったことに関して、「マイナス金利解除は既定路線に近く、あまり関係ない」と述べた。

  門間氏は昨年10月のインタビューで、日銀が同月の会合で実施したYCCの運用柔軟化を予測していた。


日銀政策は「正常化すべき時」、財政への忖度不要-吉川東大名誉教授

  • 景気悪化への備えも重要、3・4月に「出口迎えてもおかしくない」

  • 財政規律は大規模緩和で緩み、市場金利前提に政府の責任で対応を

吉川洋東京大学名誉教授は、日本経済がインフレの状態にある中で、日本銀行は金融政策を正常化すべき局面にあるとし、金利上昇が日本の財政に与える影響にも忖度(そんたく)すべきではないとの見解を示した。

日銀参与の吉川氏は27日のインタビューで、消費者物価がほぼ2年間も日銀の2%目標を上回る現状は定義に従えばインフレだとし、異次元と言われる金融緩和を「続ける状況ではない」と指摘。「当然、正常化すべき時だ」とした上で、経済・物価情勢に大きな異変がない限り、3月もしくは4月に「出口を迎えてもおかしくない」と語った。

  国会の議決が必要な財政政策に比べ、金融政策は「究極の機動性を有している」が、現在は「重くなっている印象が拭えない」という。景気循環なども踏まえれば、金融政策の後押しが必要な局面がやがて来るとし、「それに備えることも重要であり、常に動かせる状態であるべきだ」との見解を示した。

  植田和男総裁や内田真一副総裁の政策変更に向けた前向きな発言を受けて、3月か4月の金融政策決定会合での正常化観測が市場で強まっている。植田総裁の盟友として知られる吉川氏は今後の景気悪化に備える必要性があることも指摘し、日銀に早期の正常化を促した格好だ。

コアCPIは2年近く2%目標水準以上を維持

  吉川氏は昨年4月に就任した植田総裁とは東京教育大学(現筑波大学)付属駒場高校、東大の同期。同年5月から日銀参与を務める。植田体制の政策正常化に向けた取り組みは「世の中にも理解されている」とし、「ここまで来たらあと一歩だ。清水の舞台から飛び降りるということではなく、今の状況を踏まえて出口に向かえばいい」と後押しした。

  1月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は前年比2.0%上昇と、22カ月連続で物価目標の2%以上を維持した。日銀が目標実現を見極める上で注目する今年の春闘では、連合が3月15日に第1回回答集計を公表する。日銀は同月18、19日に次回会合を開催する。

  吉川氏は、この間のインフレによって食料品の価格が大きく上昇するなど「元々格差が大きい中でエンゲル係数が上がった。分配上の悪い影響がはっきりとあった」と分析。日銀が目指す賃金と物価の好循環に関しては、言わんとすることは理解するが、われわれにとって幸福なのかは分からないと語った。

  財政制度等審議会会長や経済財政諮問会議議員、政府税制調査会委員などの要職を歴任した吉川氏は、これまでの大規模緩和で「財政規律は緩んだ」と指摘。利上げ局面では国債費など財政にも影響を与えるが、「金融政策が財政に与える影響を考慮したり、忖度すべきではない」とし、財政は市場金利を所与として政府が責任を持って対応すべきだと強調した。