資産所得倍増プラン

政府の資産所得倍増プランの骨格が見え始めました。量・質ともに今までになかった内容のようです。今後、少しずつ勉強していきます。


資産所得倍増プラン

1.基本的考え方

〇岸田政権では、「新しい資本主義」の実現に向けた取組を進めている。「新しい資本主義」を資金の流れで見ると、企業部門に蓄積された 325 兆円の現預金を、人・スタートアップ・GX・DX といった重要分野への投資につなげ、成長を後押しすると共に、我が国の家計に眠る現預金を投資につなげ、家計の勤労所得に加え金融資産所得も増やしていくことが重要である。

我が国の家計金融資産 2,000 兆円は、半分以上がリターンの少ない現預金で保有されており、年金・保険等を通じた間接保有を含めても、株式・投資信託・債券に投資をしているのは 244 兆円、投資家数は約 2,000 万人にとどまる。
 他方、米国や英国では、中間層でも気軽に上場株式・投資信託に投資できる環境が整備されており、米国では 20 年間で家計金融資産が 3.4 倍、英国では 2.3 倍になっているが、我が国では 1.4 倍に留まっているのは、こうした投資環境の違いが背景にある。

○我が国において家計金融資産に占める現預金の割合が欧米諸国に比べて大きいことは、戦後、企業が銀行などの金融機関からの借り入れで調達する間接金融が発展してきたことも一因である。貯蓄から投資を実現し、直接金融への転換を推進することは、ベンチャーキャピタルから資金を調達するスタートアップのエコシステムを構築する上でも重要であり、企業の成長を支えるリスクマネーを円滑に供給することにもつながる。

〇中間層がリターンの大きい資産に投資しやすい環境を整備すれば、家計の金融資産所得を拡大することができる。また、家計の資金が企業の成長投資の原資となれば、企業の成長が促進され、企業価値が向上する。企業価値が拡大すれば、家計の金融資産所得は更に拡大し、「成長と資産所得の好循環」が実現する。

〇従来は、株式や投資信託への投資は、一部の富裕層が行うものというイメージがあった。しかし、NISA やつみたて NISA の導入後、1,700 万口座が開設され、28 兆円の新規投資が行われ、かつ、20 歳代から 30 歳代の若年層の利用が急拡大している。
また、デジタル化により、アプリ上での簡単な資産の管理や、低廉な手数料での豊富な金融商品へのアクセスも可能になっており、投資経験の浅い方も含めて、幅広く資産形成に参加できる仕組みを整備し、中間層の資産所得を大きく拡大することが可能である。

〇また、東アジアにおける地政学的状況が変化する中で、確固たる民主主義・法治主義に支えられた安心・安全な拠点という我が国の特性を活かし、「国際金融ハブ」の実現を目指すべきである。特に、新型コロナの入国規制の緩和に併せて、一気呵成に、①新たな成長に資する金融資本市場の活性化、②金融行政・税制のグローバル化、③外国籍の高度人材を支える生活・ビジネス環境整備と効果的な情報発信などを推進することで、我が国金融市場の魅力向上を通じて、資産所得倍増をバックアップしていく。

2.目標

〇資産所得倍増プランの目標として、第一に、投資経験者の倍増を目指す。具体的には、5年間で、NISA 総口座数(一般・つみたて)を現在の 1,700 万から 3,400 万へと倍増させることを目指して制度整備を図る。

〇加えて、第二に、投資の倍増を目指す。具体的には、5年間で、NISA 買付額を現在の 28 兆円から 56 兆円へと倍増させる。その後、家計による投資額
(株式・投資信託・債券等の合計残高)の倍増を目指す。

○ これらの目標の達成を通じて、中間層を中心とする層の安定的な資産形成を実現するため、長期的な目標としては資産運用収入そのものの倍増も見据えて政策対応を図る。

3.プランの方向性

〇金融庁の調査によれば、投資未経験者が投資を行わない理由として多いのは、第1位:「余裕資金がないから」(56.7%)、第2位:「資産運用に関する知識 がないから」(40.4%)、第3位:「購入・保有することに不安を感じるから」
(26.3%)である。

〇こうした調査からは、簡素でわかりやすく、使い勝手のよい制度が重要であることや、小口(100 円~1,000 円)の投資も可能であることの重要性とともに、長期積立分散投資の有効性が幅広く周知されていないことがわかる。そして、知識不足の解消や不安の払拭に向けて家計の金融資産形成を支援するためには、消費者に対して中立的で信頼できるアドバイザー制度の整備が必要であることがわかる。
こうしたことを踏まえ、資産所得倍増に向けて、以下の7本柱の取組を一体として推進する。

① 家計金融資産を貯蓄から投資にシフトさせる NISA の抜本的拡充や恒久化
② 加入可能年齢の引上げなど iDeCo 制度の改革
③ 消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設
④ 雇用者に対する資産形成の強化
⑤ 安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融経済教育の充実
⑥ 世界に開かれた国際金融センターの実現
⑦ 顧客本位の業務運営の確保

〇なお、税制措置については、今後の税制改正過程において検討する。

4.第一の柱:家計金融資産を貯蓄から投資にシフトさせる NISA の抜本的拡充や恒久化

〇2014 年に開始された NISA(Nippon Individual Savings Account、少額投資非課税制度)は、制度の開始以来、利用者数が着実に増加し、現在は 1,790万口座と国民の7人に1人が NISA 口座を保有している。内訳としては、一般 NISA の口座数が 1,065 万口座、つみたて NISA が 639 万口座、ジュニア NISA が 87 万口座となっている。買付額については、一般 NISA が 26 兆円、つみたて NISA が 2.1 兆円、ジュニア NISA が 0.6 兆円となっている。

○ 所得別の NISA の利用状況を見ると、NISA を利用する個人の7割は年収 500万円未満である。また、所有資産額別では、NISA 利用者の過半数は世帯保有金融資産が 1,000 万円未満となっている。我が国の家計の平均保有金融資産
額は単身世帯が 1,062 万円、2人以上世帯で 1,563 万円であることに鑑みると、NISA 制度は中間層を中心とする層の資産形成のために活用されていることがわかる。

○ 各世代の NISA 口座の開設状況をみると、どの世代でも概ね2割の国民が口座を開設している。30 歳代まではつみたて NISA の開設が多く、40 歳代以上では一般 NISA の開設が多い。特に足元では、20 歳代から 30 歳代の若年層の買付が伸びている。60 歳代以降の買付額では、一般 NISA が多い。

○個人投資家を対象としたアンケート調査によると、NISA 口座開設によって、
「大きな資金がなくても、少額から投資が始められることが分かった」、「長 期投資や分散投資を意識するようになった」、「預貯金だけではなく、投資を 通じた財産形成の必要性を感じるようになった」といった回答が多く見られ、投資に対するイメージがポジティブに変化することがわかる。

○他方で、NISA 口座を保有しない方へのアンケート調査によると、NISA 口座を開設しない理由について、「そもそも投資をする気がない」や「制度が複雑である」といった回答が多く見られる。

○ NISA は中間層を中心とする層に対して、資産形成の入り口として定着しつつある。他方、上述のように、NISA の活用割合は2割であり、更に活用を促す余地は大きい。そこで、制度の予見可能性を高め、制度をシンプルにすることにより中間層を中心とする層の資産形成を更に促すため、NISA 制度の恒久化を図る。併せて、非課税保有期間の無期限化と非課税限度額の引上げを進める。

①NISA 制度の恒久化

○ 現在、NISA は一般 NISA(一人当たり 120 万/年、5年間非課税)とつみたて NISA(一人当たり 40 万円/年、20 年間非課税)が成年向けの制度として存在する。

○ 2014 年に時限措置として一般 NISA の制度が開始され、その後、2018 年につみたて NISA の制度が導入された。当初、一般 NISA は 2023 年までの投資可能期間の期限が設定され、つみたて NISA は 2037 年までの投資可能期間の期限が設定されていた。現在では、2024 年に一般 NISA が見直され、2028 年までの投資可能期間の期限を設定した新 NISA に変更される予定となっている。また、つみたて NISA は投資可能期間の期限が延長され、2042 年までの期限が設定されている。

○ 他方、NISA 制度が時限的な措置として設けられている限り、制度の終了が意識されることで長期的な投資が行いにくいという指摘が個人投資家等からなされている。中間層を中心とする層に対して安定的な資産形成を促す観点からは、将来にわたって安定的な制度として NISA を措置することで、NISAを活用した金融資産形成についての予見を可能とすることが必要である。それにより、継続的な投資を促すことが可能となる。

○ 一般 NISA は、株式投資信託、国内・海外上場株式も含めて幅広い投資先への投資が可能であり、個人投資家による企業への投資が企業の成長を支える資金となり、成長の果実が個人投資家に還元されるという循環がある。一般 NISA を用いて個人が企業に対して直接資金を供給することで、資金面から日本の成長を支えるエコシステムの構築につながる。

○つみたて NISA は、投資先を金融庁が告示した要件を満たす長期・積立・分散投資に適した公募株式投資信託と上場株式投資信託(ETF)に限定している。このため、投資経験が浅い者等にとっての少額からの長期・積立・分散投資を支援するのに利便性の高い制度となっている。

○ 一般 NISA とつみたて NISA のいずれも重要な意義を有するものであり、そこで、NISA 制度を恒久化することによって、中間層を中心とする層が将来にわたって安定的に資産形成を行う環境を整備する。

②NISA の非課税保有期間の無期限化

○ 一般 NISA では、一般 NISA の口座において購入した金融商品について、投資開始の5年後まで金融商品から得た利益(配当金、譲渡益等)が非課税となっている。つみたて NISA についても同様に、つみたて NISA の口座において購入した金融商品について、投資開始の 20 年後まで一定の投資信託への投資から得られる利益(分配金、譲渡益等)が非課税となっている。

○投資は短期的には収益に振れが生じるものであるが、長期的に平均すれば資産形成に大きな効果がある。他方で、非課税期間に期限が存在することで、短期的に含み損益が生じた場合に長期で価格が上昇するのを待つのではなく、短期的に損益を確定させてしまい、長期で保有を継続するというインセンティブが生じにくい制度となってしまっている。

○さらに、20 歳代や 30 歳代からつみたて NISA での投資を開始した場合、40 歳代や 50 歳代という未だに資産形成の段階にある時期に、20 年間の非課税保有期間の期限が到来し、資産を活用する時期を迎える前に金融資産を取り崩すインセンティブが生じることとなる。

○ このため、NISA の投資に関する適切な生涯の上限枠を設けることを前提として、NISA の口座において購入した金融商品について、金融商品から得た利益
(配当金、譲渡益等)が非課税となる期間について無期限とし、金融商品の長期保有へのインセンティブを抜本的に強化する。

③一般 NISA・つみたて NISA の投資上限額の増加

○ 現在、NISA における非課税での年間投資枠の上限は、一般 NISA で 120 万円、つみたて NISA で 40 万円となっている。

○ 2021 年中における投資枠の利用状況をみると、一般 NISA の買付のあった口座のうち、60 歳代以上の世代では、年間投資額が 100 万円超の世帯が 47%を占めている。このことは、年間投資枠の上限まで投資を行う投資家が多く存在することを示唆している。

○また、退職金の受取りや住宅ローン返済を終えた 60 歳代より上の世代は、保有する預貯金額の世帯平均が 900 万円を上回り、現在の一般 NISA におけ

る生涯の投資上限額である 600 万円を超えている。貯蓄から投資を実現するためには、預貯金の過半を保有する高齢者の投資を促し、高齢者にとって望ましい資産ポートフォリオ・資産配分実現のためにも一般 NISA の投資上限を拡大することが必要である。

○さらに、働き方が多様化する中で、定期的な収入ではなく非恒常的な収入によって生活するフリーランス等の新しい働き方を選択する層も増加している。こうした多様な働き方を支援するためには、資金に余裕のあるときに集中的に投資を行うことができる環境を整備することが望ましく、一般 NISA の拡充の必要性が高い。

○他方で、つみたて NISA についても、現在の年間 40 万円の上限では不十分な場合も想定され、一般 NISA と同様につみたて NISA の投資限度額を拡大する意義は大きい。また、現在の年間 40 万円の上限額では毎月の投資上限額が 3
万 3,333 円と 12 カ月で均等に割り切れる額ではないことから、毎月均等額で積立投資が可能となる金額とすることも必要である。

○ このように、NISA における非課税での投資の上限額に関して、一般 NISA 及びつみたて NISA それぞれの投資上限額の増加を図ることで、資産所得の倍増の目標の達成に向けて、家計の投資環境を整備する。

④2024 年から施行される新 NISA 制度の取扱い

○ 2024 年 1 月より、一般 NISA は、原則として1階部分において積立投資を行った場合に限り2階部分で一般 NISA の投資を行うことが可能となる2階建ての新 NISA 制度に移行する予定となっている。

○ 新 NISA 制度を利用しないと返答した投資家を対象としたアンケートによると、その理由として、45%が「2階建て制度が複雑なため」、31.5%が「1階部分の積立投資を行いたくないため」としている。

○ 簡素でわかりやすく、使い勝手のよい制度とする観点から、新 NISA 制度については、その施行を見直し、現在検討中の NISA の制度の拡充を行う。

⑤NISA の手続きの簡素化

〇投資未経験者も含めて、利用者が簡単に NISA を活用できるようにするとともに、サービスを提供する金融機関や利用者の負担を軽減する観点から、関係省庁において連携の上、デジタル技術の活用等により、NISA に係る手続きの簡素化・合理化等を進める。さらに、デジタル庁と連携を図りつつ、マイナンバーカードの活用も含め、NISA・iDeCo の口座開設の簡素化を検討する

5.第二の柱:加入可能年齢の引上げなど iDeCo 制度の改革

<iDeCo 制度の改革>

〇iDeCo(individual-type Defined Contribution pension plan、個人型確定拠出年金)制度は、個人が加入し、加入者が自ら定めた掛金額を拠出・運用するものであり、原則 60 歳以降に、掛金とその運用益の合計額をもとに給付額が決定し、給付を受ける制度である。

iDeCo には3つの税制優遇が存在する。①掛金の拠出について全額所得控除される。②運用益も非課税で再投資される。③受け取る時も税制優遇措置がある。一時金として受け取る場合には「退職所得控除」、年金の場合は「公的年金等控除」の控除を受けることができる。

○ こうした優遇措置を有するiDeCo 制度は豊かな老後生活に向けた資産形成の手段として幅広い世代に活用されており、アンケート調査によれば、iDeCo の加入者を保有資産別に見ると、100 万円-500 万円の層の活用が多く、また、 20 歳代の iDeCo 加入者は iDeCo の利用をきっかけとして資産運用を開始した割合が5割となるなど、中間層を中心とする層で活用され、家計の資産所得の増加に貢献している。

○ iDeCo は 2001 年の制度創設以来、加入対象範囲の拡大などの累次の制度改革を行ってきた。2017 年1月の制度改正では、加入対象を拡大し、国民年金第
1 号被保険者及び企業年金のない第2号被保険者に限定されていたものから、全ての被保険者種別の国民年金被保険者を加入可能とした。2022 年5月から は加入可能年齢を拡大し、60 歳未満の国民年金被保険者に限定されてきたも のから、原則 65 歳未満の国民年金被保険者であれば加入可能とした。

○このような制度拡充の中で、iDeCo の加入者は 2017 年 3 月末時点の 43 万人から 239 万人15と拡大してきたものの、公的年金加入者(6,725 万人)16と比較すれば、なお限定的であり、更に利用を進める余地が大きい。制度の認知度の向上や手続きの煩雑さの解消を進め、iDeCo をより容易にかつ幅広く活用できるようにする。

○ さらに、2020 年に高年齢者雇用安定法の改正法が成立し、2021 年 4 月より 65 歳から 70 歳までの高年齢者就業確保措置を講ずることを企業の努力義務にするなど、70 歳までの就業を支援することとなった。そこで、高齢者の就業機会確保の努力義務が 70 歳まで伸びていること、働き方やライフスタイルが多様化していることに留意し、老後に向けた家計の資産形成の更なる環境整備が求められていることから、iDeCo 制度の改革を実施する。

①iDeCo の加入可能年齢の引上げ

○ iDeCo の加入には国民年金被保険者である必要があり、iDeCo の加入可能年齢については、①第1号被保険者(自営業者等)は 60 歳未満、②第2号被保
険者(会社員・公務員等)は 65 歳未満、③第3号被保険者(専業主婦(夫))は
60 歳未満、④任意加入被保険者:保険料納付済期間等が 480 月未満の者は任意加入が可能(65 歳未満)となっており、違いがある。

○そこで、働き方改革によって、高年齢者の就業確保措置の企業の努力義務が 70 歳まで伸びていること等を踏まえ、iDeCo の加入可能年齢を 70 歳に引き上げる。このため、2024 年の公的年金の財政検証に併せて、所要の法制上の措置を講じる。

②iDeCo の拠出限度額の引上げ及び受給開始年齢の上限の引上げ

○ 現在の iDeCo の拠出限度額は、第1号被保険者(自営業者等)は月額 6.8 万円、第2号被保険者(会社員・公務員等)のうち企業年金ありの者は月額 1.2-
2.0 万円、企業年金なしの者は 2.3 万円、第3号被保険者(専業主婦(夫))
は月額 2.3 万円となっている。

○ 2024 年 12 月より、会社員・公務員等のうち、企業年金ありの者は、拠出限度額が 2.0 万円に統一される予定である。

○ また、iDeCo の受給を開始できる年齢については、上限年齢が 75 歳となっている。

○ これらのiDeCo の拠出限度額の引上げ及び受給開始年齢の上限の引上げについて、2024 年の公的年金の財政検証に併せて結論を得る。

③iDeCo の手続きの簡素化

〇なお、NISA と併せて、iDeCo についても、各種手続きの簡素化・迅速化を進め、マイナンバーカードの活用も含め事務手続きの効率化を図る。

6.第三の柱:消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設

<消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設>
○アンケート調査では、消費者のうち、証券投資の必要性を感じないと思う割合が7割を占めている。理由としては、「損をする可能性がある」が4割、「金融や投資に関する知識を持っていない」「ギャンブルのようなもの」という認識がそれぞれ3割あり、知識不足に伴う懸念が大きいことが示唆される。

○ 金融機関も情報提供を担っているが、証券会社のイメージについてのアンケートでは、「敷居が高い」(42.1%)、「あまり信頼できない」(27.9%)、「勧誘がしつこい」(15.2%)といった声が多い。

○ 他方で、「あなたの立場に立ってアドバイスしてくれたり、手続きをサポートしてくれる人がいたら、リスク性金融商品を購入したいと思うか」というアンケートに対し、20 歳代で5割、30 歳代で4割、全体平均では 25%程度が
「購入したいと思う」と回答している。

○このように、消費者の知識不足を補完し、他方で、消費者が信頼をすることができる中立的なアドバイザーが求められている。

〇英国では、金融・年金関連の情報やガイダンスの提供を担う公共機関
「MaPS(The Money and Pensions Service)」が創設された。MaPS は、政府外の公的機関という位置づけで、オンラインや電話を通じて、債務アドバイスや金融取引・年金に関する情報提供、消費者保護のサービスを提供している。

○ 我が国においても、英国の MaPS や諸外国における仕組みを参考として、資産形成についての相談が、中立的な者により、気軽に行うことができる仕組みが必要である。

○ そのため、中立的なアドバイザーの見える化を進めるとともに、そうしたアドバイザーにより顧客本位で良質なアドバイスが広く提供されるよう取り組んでいくことが重要である。そこで、令和6年中に新たに金融経済教育推進機構(仮称)を設置し、アドバイスの円滑な提供に向けた環境整備やアドバイザー養成のための事業として、中立的なアドバイザーの認定や、これらのアドバイザーが継続的に質の高いサービスを提供できるようにするための支援を行う

○ 特に、こうした中立的なアドバイザーが行うアドバイスが投資初心者層へ広く提供されるよう、助言対象を絞った投資助言業(例えば、つみたて NISA や iDeCo における投資可能商品に限定)の登録要件の緩和を、必要な監督体制の整備と併せて検討する。

7.第四の柱:雇用者に対する資産形成の強化

○ 持続的な成長と分配の好循環を達成し、また岸田政権の掲げる新しい資本主

義を実現し、そして、分厚い中間層を形成していくためには、その所得水準を高めていくことが重要である。

○ そこで、勤労所得の拡大に向けて、労働市場改革として、①雇用者に成長性のある企業・産業への転職の機会を与える企業間・産業間の失業なき労働移動の円滑化、②リスキリング(成長分野に移動するための学び直し)のための人への投資、③これらを背景にした構造的な賃金引上げ、の3つの課題を同時解決していく。

○ 併せて、雇用者の保有する金融資産からの所得を拡大し、持続的な企業価値向上の恩恵が家計にも及ぶという好循環を作り上げる。このため、企業による雇用者への資産形成を強化することが必要である。

○ 雇用主としての企業は雇用者からの信頼度が高く、世界では、人々の幸福を目指すうえで心身の健康のみならず、企業を通じた経済的な安定を支援する取組が広まりつつある。我が国においても雇用主による雇用者の経済的な安定の向上に向けた取組を推進することが求められている。

<中立的な認定アドバイザーの活用>

○ 企業における雇用者の資産形成を支援する取組は、雇用者の満足度の向上や雇用者の定着率の向上、金銭的ストレスの軽減といった効果が指摘されている。他方で、多くの個人が資産形成に関するアドバイスを受ける必要性を認識しながらもその機会を十分得られていない。

○ そこで、企業を通じた雇用者の経済的な安定の取組を活性化するため、職域における中立的な認定アドバイザーを活用する取組を企業に促す。

〇具体的には、雇用者が中立的な認定アドバイザーを活用する場合に企業から雇用者に対して助成を行うことを後押しする。また、既に一部の企業で実施されている雇用者向けの企業内インセンティブ・ポイントプログラム(雇用者に対して資産形成や関連サービスへの活用可能なポイントを配布するもの)の横展開を図る。さらに、企業内に設置される雇用者向けの資産形成の相談の場において、中立的な認定アドバイザーを積極的に活用することを促す。

<企業による資産形成の支援強化>

○ 従業員が職場つみたて NISA や従業員持株会に投資する際の企業の奨励金について、課税に関する取扱いを検討する。

○ また、企業における雇用者の資産形成の支援のための取組は、人的資本の戦略上も重要である。その一方で、中小企業においては雇用者の資産形成支援の取組が十分には進んでおらず、中小企業も含めた幅広い支援を行っていくことが求められる。そこで、中小企業において職場つみたて NISA や企業型確定拠出年金、iDeCo が広がるように、これらの制度の普及に取り組むとともに、必要な支援について検討を行う。

○ さらに、企業による雇用者の資産形成の強化は、本年8月に公表した「人的資本可視化指針」に示したとおり従業員エンゲージメントの向上にも効果的であり、「人的資本可視化指針」も活用し、雇用者の資産形成を支援する取組を積極的に情報開示するように企業に促していく。

8.第五の柱:安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融経済教育の充実

<安定的な資産形成の重要性の浸透>

○ 金融経済教育を受けたと認識している人は7%に留まる一方、金融経済教育を行うべきと回答した者は7割を上回っており、金融経済教育を求める国民の声は大きい。さらに、資産運用を行わない理由としては、4割の者が「資産運用に関する知識がない」ことを理由として挙げており、こうした層に安定的な資産形成の重要性を浸透させていくため、金融経済教育を届けていくことが重要である。

○ また、政府、日銀、各業界団体などの様々な主体が学校や社会人向けに金融経済教育を実施しているが、学校や職場において資産形成に関連する金融経済教育を受ける機会は限定的であり、担い手についても金融事業者や業界団体が中心であり、受け手に抵抗感が存在している。

○ そこで、中立的なアドバイザーの認定に関する事業と併せ、官民一体となった金融経済教育を戦略的に実施するための中立的な組織として、既述のとおり、新たに令和6年中に金融経済教育推進機構(仮称)を設立する。その際、日本銀行が事務局を担う金融広報中央委員会の機能を移管・承継するほか、運営体制の整備や設立・運営経費の確保に当たっては、政府・日本銀行に加え、全国銀行協会・日本証券業協会等の民間団体からの協力も得る。

○ 金融経済教育推進機構(仮称)を中心として、企業による社員への継続教育の充実や地方自治体による金融経済教育の実施と併せて、広く国民に訴求する広報戦略を展開するとともに、学校・企業向けの出張授業やシンポジウムの開催など、官民一体となった効率的・効果的な金融経済教育を全国的に実施する。

○ 「金融リテラシー・マップ」の活用や、行動経済学の知見も参考にする。

<国民への働きかけ>

○ NISA の抜本的拡充や iDeCo 制度の改革、中立的なアドバイザー制度の創設や金融経済教育の充実を政策的に進める一方で、これまで投資未経験の方(約 8,000 万人)に、資産形成に一歩踏み出してもらうための働きかけを行う。

○ このため、資産形成支援に関連する施策を関係省庁や地方自治体・民間団体等が連携して、国全体として総合的かつ計画的に推進すべく、国家戦略としての「基本的な方針」を策定する。その際、金融庁が事務局機能を担い、関係省庁の連携を促すとともに施策の調整・フォローアップを行う。また、協議会等の場を設け、広く官民が協力して資産形成に必要な施策の協議・推進にあたる。

○ 新機構においては、個人が投資機会を身近に感じられるよう、つみたて NISA等の制度に関する情報発信も含め、全世代向けに積極的な広報を展開する。

○ なお、機構の設立準備の段階から、協議会等により、国民への働きかけのための活動を、金融事業者等各参加者の適切な役割分担の下で行う。

<公的年金シミュレーターと民間サービスとの連携等>

○ 本年4月に、将来の年金受給見込み額を簡便に試算できる「公的年金シミュレーター」の試験運用を開始した。今後は、民間サービスとの連携を進展させることにより、民間事業者が運営するアプリ等で、簡便に自身の保有する金融資産や将来の年金受給見込み額を参照できるようになり、また、保有資産の分析・運用アドバイスなども、スマホ上で提供され、国民は簡便に資産の管理・運用ができるようになる。このため、今年度において、公的年金シミュレーターと民間サービスとの連携に関する運用実験を実施する。

9.第六の柱:世界に開かれた国際金融センターの実現

〇パンデミックを契機とした BCP(事業継続計画)の見直しの動きや東アジアにおける地政学的に不透明な状況の中で、投資家や資産運用業者において新たな拠点を模索する動きが出ている。

〇こうした中、我が国は、確固たる民主主義・法治主義に支えられた安心・安全な生活・ビジネス環境があるとともに、大きな実体経済、株式市場、2,000兆円の家計金融資産等が存在している。この日本の利点を最大限に活用し、

世界の成長資金を円滑に取り込んで提供し、アジア・日本の経済の発展に貢献する、「世界・アジアの国際金融ハブ」としての地位を、我が国が確立できるチャンスが到来している。

○ このため、①新たな成長に資する金融資本市場の活性化、②金融行政・税制のグローバル化、③外国籍の高度人材を支える生活・ビジネス環境整備と効果的な情報発信などを総合的に進める。

<金融資本市場の活性化>

○ スタートアップやESG 等の社会課題の解決による成長に資する資金供給の円滑化、企業における開示やコーポレートガバナンスの促進、市場インフラの強化や規制改革等により、金融資本市場の活性化を図る。

(1)スタートアップ支援

〇我が国では、上場件数それ自体は増えているものの上場後に企業価値が伸び悩む、いわゆる「上場ゴール」という弊害が指摘されている。そのため、新興企業が上場という選択肢を採らなくても、投資家から資金を集め成長していくためには、既存株主が容易に発行済株式をセカンダリー取引できるようにすることが重要である。また、セカンダリー取引を行うにあたり不可欠となる民間主導の非上場会社の株主名簿の適切な管理を促す取組を進めることも重要である。現在、証券会社が運営する私設取引システム(PTS)において、プロ投資家向けにも未上場株の取扱いが認められていないが、スタートアップが未上場のまま成長できるよう、プロ投資家向けの非上場株式の取扱いを可能とするため、2023 年度中に金融商品取引法の関係政令を改正する。

○ スタートアップが事業会社の傘下で大きく成長する出口戦略となる M&A を促進するため、オープンイノベーション促進税制について、特にスタートアップの成長に資するものに限定したうえで、既存発行株式の取得に対しても税制措置を講じる。その際、十分に実効的な税制措置とする。

(2)ESG 債市場等の活性化

〇ESG 債は、近年の環境問題への世界的な関心の高まりを受けて、世界で発行額が急増(2018 年 0.2 兆ドルから 2021 年 1.2 兆ドルに)している。我が国
においても、国内発行額が増加(2018 年 0.5 兆円から 2021 年 2.9 兆円に)しているが、経済規模からいえば更なる活用の余地は大きい。

〇また、投資家にとって、株式等の伝統的投資対象との価格連動性が低いことから、分散投資によるリスク低減のための有効な選択肢となることや、低金利下ではプレミアムを抑える余地が少ない一方、金利が上がればグリーンボンド等の発行のメリットが大きくなる可能性があると指摘されている。

〇ESG 債発行額を順調に伸ばすため、調達資金の使途(プロジェクト内容)・資金の管理・活用実績/評価や企業の排出量などサステナビリティの取組を見える化し、グリーンボンド・トランジションボンド(脱炭素へ移行するための投資を資金使途とする債券)への信頼性を高めることが必要である。そのため、環境省の現行のガイドラインの更なる拡充や、日本取引所グループ(JPX)と連携した企業データプラットフォームの構築、トランジション・ファイナンスの推進に向けた環境整備(分野別技術ロードマップの充実)、開示規制の更なる充実を進めるほか、資本性を備えた ESG 商品の拡充についても取組を促す。

○ また、ソーシャル分野への投資やイノベーション投資を含め、経済利益に止まらず広く社会的課題の解決を目指す「インパクト投資」を拡大するよう、金融庁は来年6月を目途にそのための基本的指針を取りまとめる。

(3)人的資本への投資

○ 投資家と企業との建設的な対話を促進し、コーポレートガバナンス改革を支える観点からは、企業情報の開示の充実に向けた取組も併せて進めることが重要である。

○ 人的資本に関する情報開示の在り方に焦点を当てて、対応の方向性について包括的に整理した手引きとして、「人的資本可視化指針」を8月に公表した。この指針の普及に取り組み、企業に自社の業種やビジネスモデル・戦略に応じて積極的に活用することを促し、人的資本への投資が長期的な利益の拡大の源泉となることについて経営者や投資家、従業員をはじめとするステークホルダー間の相互理解を深めることで、人的資本への効果的な投資を加速させる。

○ さらに、中長期的な企業価値向上に向け、人的資本に関する開示ルールの整備やサステナビリティ情報の開示の充実を推進するとともに、国際ルールの形成を主導する。

(4)コーポレートガバナンス改革

○ コーポレートガバナンス改革は、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの策定・改訂等により、この 10 年間で大幅に進展しているが、企業の持続的な成長と中長期的な価値向上を図るため、コーポレートガバナンス改革の実質化に向けて更なる取組を進める必要がある。

○ そこで、海外投資家を含むステークホルダーから幅広く意見を聞き検討を行う場(フォーラム)を設け、来春目途に、改革を実質面で推し進めるための

「アクション・プログラム」を取りまとめる。

(5)市場インフラの強化

○ 私設取引システム(PTS)の売買高上限の緩和等に係る論点の整理を進め、市場全体の機能向上を図る。また、東京証券取引所などの金融商品取引所において、投資単位が高い水準にある上場会社の投資単位の引下げに向けた取組を進める。

(6)銀証ファイアウォール規制の見直し

○ 銀証ファイアウォール規制については、例えば、銀行の顧客情報をグループ証券会社に個別合意なく共有することが禁止されており、情報共有やターゲティングなど、デジタルの強みを活かしたビジネスの足かせになっているとの指摘がある。こうした中、同規制のうち、顧客情報授受規制については、本年6月、上場会社等に限定して、顧客の事前同意なく銀証間での情報共有が可能となったところである。

○ デジタルの力を最大限活かして、真に個別の顧客ニーズにあった商品・サー ビスを提供しやすくするなど金融機能の強化に向けた取組を推進する観点 から、適切な顧客情報管理の確保や優越的地位の濫用の防止等に配慮しつつ、銀証ファイアウォール規制の在り方や必要とされる対応につき検討を行う。

<金融行政・税制のグローバル化>

〇「世界から選ばれる日本市場」となるためには、世界の金融人材にとって最高のアクセシビリティを誇る市場とグローバルスタンダードに照らしてベストプラクティスと言える最高レベルの行政やサポート体制を目指すとともに、それを効果的に発信する必要がある。国内投資家の国内投資環境の整備にも貢献する。

○このため、まず、海外事業者への直接の働きかけやニーズ等のヒアリングを積極的に進め、日本への進出に関する潜在的ニーズや課題を常に正確に把握しつつ、海外主要メディア等の広報チャンネル拡大、「国際金融センター」専用ウェブサイトの拡充等を効果的・戦略的に実施する。

〇英語での登録審査や監督を可能にするために昨年に新設された「拠点開設サポートオフィス」の機能と体制を強化し、海外金融事業者に更に寄り添う行政サービスや信用保証等の支援の提供を目指す。

〇また、「国際金融ハブ」に向けた取組を進める上で、我が国は、香港やシンガポールといった国・地域とはそもそもの成り立ちが異なるものの、税負担が弱みとなっていることは否定できない。そのため、資産運用会社の役員報酬

に係る税制上の扱いや外国人高度金融人材に対する相続税課税の見直しなどがこれまでにも行われているが、海外の高度金融人材・金融事業者からみて日本進出の障害とみなされている課題を始め、「国際金融ハブ」に向けた税制上の諸課題について把握し、必要な見直しに向けた対応を行う。

<外国籍の高度金融人材を支える生活・ビジネス環境整備>

〇外国籍の高度金融人材が生活・ビジネスを開始するうえで不可欠なものの一つである預金口座の開設が円滑に進むよう、引き続き、金融機関の取組を促すなど、高度金融人材を支えるための生活・ビジネス環境整備に取り組む。

10.第七の柱:顧客本位の業務運営の確保

〇家計の安定的な資産形成を図るためには、成長の果実が家計に分配される
「資金の好循環」を実現することが重要である。そのため、家計の資産形成を支えるように、顧客・受益者から投資先企業へ投資がなされ、その価値向上に伴う配当等が家計に還元される一連の流れ(インベストメント・チェーン)の各参加者が期待される機能を十二分に発揮することが必要である。このため、金融事業者や企業年金制度等の運営に携わる者について、横断的に、顧客等の利益を第一に考えた立場からの取組の定着や底上げが図られるよう、必要な取組を促すための環境整備を行う。

〇販売会社については、リスクが分かりにくく、期待リターンに比べて、コス卜が合理的でない可能性のある商品を販売しているのではないか等の指摘がある。各々の投資家のニーズに合った金融商品が、投資初心者も含めて分かりやすく提供されることが重要である。このため、顧客等の利益を第一に考えた立場から行動することを求めるとともに、ルール化等により、保険を含めた金融商品について手数料などのコストや利益相反の可能性の見える化を進めることにより、「顧客本位の業務運営」の推進を一層強化する。

○ 資産運用会社や金融商品の組成会社については、必ずしも顧客本位でなく販売促進を優先した金融商品の組成・管理が行われているのではないか等の指摘がある。適切なガバナンスと経営体制の下で、①真に専門性のある人材の適正配置(親会社からの派遣人事の脱却)と専門人材への適切な職務・報酬等の設定、②顧客目線での商品開発・販売・結果分析といったガバナンスの徹底が進み、顧客本位の商品組成・販売や運用の高度化が進むよう、「顧客本位の業務運営に関する原則」の見直しや必要なルールの整備を図る。

○ アセットオーナー(企業年金含む)については、受益者等の便益を最大化する観点から、アセット(資産)の性格や規模を踏まえた適切な運用リターン

の実現を図る必要がある。このため、関係省庁が連携して幅広い関係者との継続的対話の体制を整備し、運用体制・手法に係る調査研究の実施やベストプラクティスの共有・普及を図るなど、運用の改善に向けた対応を進める。