今後の地価はどうなるのでしょうか?

 

「地価大暴落」説に踊らされない人の2つの知見、団塊世代の大量死→相続大発生に根拠はあるか?

2024年10月3日DIAMOND online

団塊世代の死亡率上昇で相続大量発生は本当なのか

団塊の世代は1947年から1949年頃に生まれた人で2024年現在75~77歳になる。日本の歴史で最も出生人口が多かった、いわゆるベビーブーマーだ。

日本人の平均寿命は男性80歳、女性87歳なので、2030年頃には亡くなる確率が高い。このタイミングで大量の相続が発生するが、相続人はすでに50~60代を迎え、自宅の持家率は高い。そうなると、戸建用地の売却数が大量に出て、需給バランスが悪化し、地価が下がる。

このストーリーはよくできた話である。自分の持ち合わせた知識、因果関係、経済合理性などと符合し、実現可能性が高そうで、話が違和感なくスーっと入ってくる。ストーリーというのは人間が伝播しやすいように作られている。そこには人間が信じ込みやすい「魔力」のようなものがあるのだ。

 日本は少子高齢化で、死亡人口は右肩上がりで、出生人口は右肩下がりになっている。それは2007年前後で逆転し、今後の再逆転はない。死亡人口は2000年の96万人から2023年の149万人にほぼ一直線で増え続けている。社会保障人口問題研究所によると、今後も増え続け、2040年に167万人でピークとなり、その後は緩やかに減ると予測されている。

分かりやすくするために、2000年を基準(=100%)として比較すると、2010年は124%、2020年は143%、2030年は166%、2040年は173%となる。10年間の伸び率は下がっているので、死亡数の急増はすでに起こっていることになり、突出した相続ピークが起こることはない。なぜなら、人は平均寿命の年齢きっかりに亡くなるわけではなく、その前後10年以上のスパンで分散するからだ。

では次に、土地の売却数は死亡数に準じて増えるのかを検証してみよう。不動産の売出・成約の売買データが集積するのが、東日本流通機構が保持する不動産業者のデータベースだ。

2001年以降に首都圏で売り出された戸建用地の在庫数は最小6630、最大1万4363の間にあり、平均1万件で安定している。首都圏の死亡人口は、2001年の21万5756人から2023年の39万2407人へと1.82倍になっている。相続が発生しても、土地の売却件数は増えたりはしていないのである。統計的には、相関係数が▲0.1で、相関性がないということになる。

こうなる理由を調べた結果がある。国土交通省は空き家の所有者に今後5年間での利用意向を調査している(令和元年空き家所有者実態調査)。その結果は、売却意向は17.3%、賃貸意向は5.3%で合計でも22.6%にしか達していない。

実際、売却や賃貸をするなら、家財道具をすべて処分する必要があるし、リフォームも必要かもしれない。また、相続人の間で意見が割れて、先送りになるかもしれない。つまり、これは利用意向なので、実際に実行に移す確率はもっと低くなる可能性すらあるのだ。

「空き家になったら解体して更地」は人の心理として正しいのか

では、利用意向で最も多いのは何か。これについては、空き家にしておく(28.0%)、セカンドハウスなどとして利用(18.1%)と、合計で46.1%の半数弱が「放置」しているのが現状となる。差し迫った締め切りがない場合、人は何もしない確率が高いのは、小学生の夏休みの宿題と似ていて、大人になってもあまり変わらないようだ。

空き家所有者がいたら、「解体して更地にして売却するのがいい」と私だって専門家として進言するが、人間はそれだけでは動かないものだ。空き家の売却は、少しハードルが高いかもしれない。

思い立ったら個人的にはすぐにでもやれることとして、ふるさと納税がある。2000円を払えば、年収200万円の方で、2万2400円ほどの寄付ができる。その3割相当となる6700円の買い物ができるので、自分の好きな商品を選び放題で5000円近くお得ということになる。

経済合理性だけで考えると、ほとんどの人がやっていてもおかしくはないと思いがちだが、実際にやっている人は納税義務者の16%しかいない。ここから、人間は経済合理性で動くわけではないことが分かる。

「よくできたストーリー」に騙されない二つのこと

そこで、よくできたストーリーに騙されないために、二つやることがある。

一つは、科学的に真偽を検証することだ。日本の死亡人口は2023年比で2030年は7%しか増えず、今と大して変わらないことが分かった。そして、空き家を売却する人は17%ほどしかいなかった。

二つ目は、人間行動の理解だ。人間は追い込まれないとやらない動物なのだ。ふるさと納税の利用者は16%だった。これはふるさと納税に係る寄付金税額控除をした数を納税義務者で割っているので、実態に近い。

しかし、アンケートを取ると37.6%だったりする。これはサンプルの偏りがあることを表している。人間の思考(例:経済合理性)と行動は矛盾する前提で、現実をつぶさに観察し、実現可能性の高い行動に着目する必要があるのだ。

将来予測はその結果が出るまでに、やや時間がかかる。しかし、スポーツは毎日勝敗が決まるので分かりやすい。最後にその例を挙げておこう。

メジャーリーグで統計(セイバーメトリクスと言う)を活用して、無名選手たちを集め、アスレチックスは20連勝して、地区優勝を果たした。その奇跡のようなできごとは、『マネーボール』(主演:ブラッド・ピット)という映画になった。

その因果関係は簡単に言うとこうだ。打率はあまり良くなくても出塁率(四死球を含む)が良い選手を使うと、出塁が増えるので得点が増え、得点が増えるので勝率が上がるというものだ。チーム内でもまずスカウトが反対し、監督・コーチがその起用法に反旗を翻す。しかし結果を出せば、それが常識に変わっていく。

私はこうした方法を不動産の予測に応用している。予測を「ゲーム」とすると、勝敗は当たったか否かで考えなければならない。そのために、勝敗に至る「因果関係」を深く理解して、それに関与する人々がどのような行動に出るかを推量しておく。

孫子の兵法と同じで、「彼を知り己を知れば百戦殆からず」となる。予測で未来を知ることができれば、そこから逆算して勝つ確率を上げることができる。こうして、筆者が主宰する「住まいサーフィン」の会員は99%が含み益を出している。

これは、会員が売りに出す目的で自宅査定した結果で、成約ベースの売却想定価格と残債を比較したものだ。こうした方法は仕事でもスポーツでも応用することができる。勝ちにとことんこだわると、こうした戦略を構築し、勝率を上げることができるのだ。