資産所得

資産所得倍増

岸田文雄首相が「資産所得倍増」の政策メッセージを出しました。金融所得課税強化の方向から、かなり方向転換した可能性もあります。私のような素人から見ると、現在のつみたてNISAの上限額を増やして、増やした分は国内の株式投資信託の割り当てるのではないかと想像してしまいますが、これからの動きに注目したいと思います。

成長と分配の好循環実現に向けて

ところで、22年2月に内閣府は「日本経済2021-2022―成長と分配の好循環実現に向けて―」を公表していて、そこで資産所得などについて分析していますので、勉強しましょう。


資産格差・資産所得格差の動向

(高額資産保有層における金融資産保有割合は小幅高まり、資産所得格差は拡大)
ミラノヴィッチ(2021)は、我が国資産所得の格差は他の主要国と比べて大きいと指摘しているが、その背景について確認してみたい。2014 年及び 2019 年の家計資産総額の十分位階級別に金融資産残高の分布をみると、金融資産残高全体の 40%程度、世帯当たり平均では5,000 万円程度を保有する第十分位の保有割合が小幅高まっている(第3-3-6図(1))。

各分位における 2019 年の金融資産残高の内訳をみると、金融資産残高が大きい層ほど株式等の有価証券の保有割合が大きい(第3-3-6図(2))。

また、2014 年から 2019 年にかけて金利が低下する中で、預貯金等の保有割合が大きい世帯における保有金融資産の収益率が総じて低下し、0.2%を下回る一方、有価証券の保有割合が大きい第十分位の保有金融資産の収益率は、低下したものの、他の世帯に比べて高水準にある(第3-3-6図(3))。

こうしたことを背景として、利子・配当金収入の分布をみると、第十分位の割合は 2014 年の約 54%から 2019 年には約 60%に上昇しており、2014 年と比べて資産所得の格差は拡大している(第3-3-6図(4))。総じて低い金融資産の収益率と有価証券を保有する世帯が高家計資産総額世帯に偏っていることが我が国の資産所得格差が他国と比べて大きい背景にあると考えられる34。2014 年から始まったNISAによる有価証券への少額投資非課税制度等の支援措置の一層の活用を含め、今後貯蓄から投資への転換を進めていくことは、資産所得の格差拡大への歯止めにつながると考えられる。

以上は内閣府の資料ですが、所得収入に関し野口悠紀雄が2022年4月17日に東洋経済で指摘していますので、そちらも勉強してみましょう。


「50代で年収1000万円」は日本人の中でどの位置か
平均値や中央値だけを見てもイマイチわからない

厚生労働省「国民生活基礎調査」で世帯所得の分布が示されている。2019年の調査では、1世帯当たり平均所得金額は、547.5万円だ。中央値は427万円。つまり、世帯の半分は、年間所得が427万円以下だ。

1000万円以上の世帯の比率が12.4%になる。

この調査は、自営業者なども含む。

所得とは、雇用者所得、事業所得などのほか、年金、財産所得、仕送りなどを含む広い概念だ。

ただし、これらのデータでも十分とは言えない。

日本の給与体系は年功序列的性格が強く、年齢があがるほど所得が増える場合が多いからだ。そこで、年齢別の所得分布データがほしい。

このようなデータは、これまであまりなかったのだが、内閣府「日本経済2021-22」(ミニ経済白書、2022年2月)でその分析が行われている。

これは、総務省「全国家計構造調査」「全国消費実態調査」および「全国単身世帯収支実態調査」の個票により分析したものだ。ここでは再分配前所得の分布が分析されている。

25~34歳層でも年所得1000万円以上の世帯は3%

25~34歳における再分配前の世帯所得の状況(第3-3-3図、左上が世帯累計計、右上が単身世帯、左下が夫婦のみの世帯、右下が夫婦と子供からなる世帯)を見ると、2019年で、中央値が475万円。また、1000万円以上が3%程度いる。

「夫婦と子どもからなる世帯」では、中央値が550万円であり、1000万円以上が3%程度になっている。以上の状況は、国民生活基礎調査の数字に比べると、かなり高めだ。世帯主の勤務先所得だけでは、この年齢層で、これだけの所得を得るのは、難しいだろう。これは、「世帯所得」なので、共働きの影響ではないかと考えられる。事実、この年齢層での単身世帯を見ると、中央値が360万円であり、1000万円以上の世帯は、ほとんどゼロになる。

多くの人にとって所得が最大になる50歳代を見よう。これは、付図3-3「世帯主の年齢階級別に見た再分配前所得の分布」に示されている。

45~54歳、55~64歳のいずれにおいても、1000万円以上の世帯の比率が20%程度だ。企業で年収1000万円以上となるのは、支店長、部長クラスであるが、この段階に達するのは、ほかの統計等から推測すると、同年齢の12%程度と考えられる。これと比較すると、上記の20%は、かなり高い。

では、なぜ高い数字になるのだろうか?

世帯の所得がどのような構成になっているのかは示されていないので、推測するしかない。

共働きや資産所得か?

この原因としては、原理的には、共働き、資産所得などが考えられる。まず、上記25~34歳層と同じように、同居する世帯主以外の所得による可能性もある。世帯主が50代後半の世帯では、子どもの所得もあるかもしれない。

つぎに、資産所得の可能性がある。ただし、資産所得が世帯所得に占める比率は、全世帯で2.9%、高齢者世帯でも6.5%にすぎない。

また、仮に資産所得が大きいのであれば、70歳になっても高所得世帯が高いはずだが、そうはなっていない。65歳以上になると、世帯所得が1000万円を超える世帯数の比率は、ほぼゼロになってしまうのである。それに対して、稼働所得(給与など)が世帯所得に占める比率は、全世帯で74.3%(高齢者世帯以外では85.1%)、高齢者世帯でも23.0%ある。

以上を考えると、50代で世帯所得1000万円以上の世帯とは、世帯主の勤務先所得がかなり多く、それに配偶者の勤務先所得が加算されている場合が多いのではないかと推測される。50歳代の所得(再分配前)によって、世帯を次のようにグループ化することが可能だ(学歴との関連は、筆者の想定。実際にはこうならない場合もあるだろう)。

4つのグループに分けられる

第1グループ:世帯主の所得だけで年間1000万円を超える。これは管理職になった場合に相当する。同年齢層の総人口に占める比率は1割程度と考えられる。大学卒業者が同年齢層の5割とすれば、その2割程度になる。

第2グループ:配偶者の所得と合わせて、年間1000万円を超える。これは、同年齢総人口の1割程度。大学卒業者の2割程度になる。

第3グループ:50歳代の年収の中央値は、ほぼ500万円である。したがって、世帯所得で年間500万円から1000万円が同年齢総人口の3割(=5割-2割)程度いることになる。これは、大学卒業者の6割程度にあたる。

第4グループ:世帯所得が500万円未満。これは同年齢総人口の5割程度。高卒程度に相当する。

以上をまとめると、図表のようになる。


⇒ 岸田首相は、預金をたくさん持っているのは高齢者であり、現在はその高齢者の資産所得が少ない(あるいはほぼゼロ)ので、それをNISAなどの投資に移動させようという考えなのでしょうか。それであれば、毎年の上限額を数十万とか百万にするのではなく、数百万から数千万円まで引き上げないと効果がなさそうです。