日本銀行の債務超過 上

政府は2023年12月22日、2024年度予算案を閣議決定しました。一般会計の総額は112兆717億円で、23年度当初予算から2兆3095億円減り、12年ぶりに前年を下回りました。政府はコロナ禍で膨張が続いた歳出を平時に戻す方針を掲げたが、6年連続で100兆円を超え、財源不足を国債発行で穴埋めする財政構造も変わっていません。

新たな国債(国の借金)の発行額は34兆9490億円と6740億円減らしたが、国債の返済と利払いに充てる国債費は1兆7587億円増の27兆90億円となった。長期金利の上昇傾向を受け、利払い費を計算する際の金利想定を、23年度の年1・1%から1・9%に引き上げたことが大きい理由です。

金利が1.9%になると、国債はさらに膨らみますが、それとは別に、日本銀行に問題が起こりそうです。その問題を見てみましょう。


テレ東BIZ 経済記者インサイトスペシャル ニッポン経済への警告② 金利ある世界へ 日銀の財務は耐えられる!? 2023年12月27日

司会 佐藤真人

川村小百合(政府の財政制度分科会委員、日本総研主席研究員)

司会:日銀の今年の4月~9月期の決算で、日銀の保有する国債の含み損が10兆5000億円となった。国債の含み損は、今後金利が上昇すれば、どうなるのか?

川村:上昇すれば、実際に日銀が買い入れた時に、計算されていた含み損が現実のものになる。

「仮に長期金利の上昇が

  •       1%で、 28.6兆円
  •       2%で、 52.7兆円
  •    5%で、 108.1兆円
  •  11%で、178.8兆円(2022年12月2日 参・予算委)」

という、すごく恐ろしい数字が出ています。

日銀が持っている国債を売れば、損を計上しなければいけないけれど、売らないで満期まで持っていれば問題は無くて、満期が来れば額面で消化してくれるから問題ないと日銀は言っています

司会:満期まで持っていれば問題ないなら、何が問題か?

川村:保有できればいいだけれども、保有できないかも知れない。現にイングランド銀行は、日銀と同じように、リーマンショックの後、コロナショックの後、たくさん国債を買い入れたけれど、今、とっくの昔に正常化のプロセスに入っている。国債をどんどん手放している。彼らは満期が来たところでもちろん国債を手放すが、それじゃあ、自分たちの資産が膨らみ過ぎて、財務が悪化したままになりかねない。それじゃあ間に合わないから、満期が来る前に国債を売って、売却損も出る。損が出るのを覚悟で売っていて、資産規模を縮小化している。日銀はまだ正常化局面に入れてもいないが、入った後に日銀の財務がどうなるかと言う問題もあるし、バランスシートが大きければ大きいほど、赤字幅がどんどん膨らむことになる。場合によっては、イングランド銀行と同じように、満期まで待っていられないということになるかもしれない。そうすると含み損が、現実の損として、日銀にのしかかってくることは否定できない。

 

司会:日本銀行のバランスシート(2022年3月)

長期国債576兆円、当座預金549兆円などが合わせてバランスしている。この長期国債を売らなければいけない事態になってくると言うのはどういうことか?

川村:これから、当座預金に金利を付けて行かなければいけない。そうしないと、市場金利の引き揚げ誘導ができない。かつて、日銀のバランスシートが、かわいくて、小さかった時には、そんなことをする必要はなく、短期金融市場のオペレーションで、資金をワーと吸収すれば、市場でお金が足りなくて、取引するときに金利の引き揚げ誘導が簡単にできた。しかし、今、民間の金融機関から、余ったお金550兆円、当座預金を預かっている以上、誰もお金が足りない人がいないので、中央銀行が当座預金に金利を付けることによって、金利誘導をせざるを得ない。そのコストがどんどんかさんでくる可能性がある。物価がどれくらいになるかによるが、物価の上昇具合によって、当座預金に付ける金利も上げて行かなきゃいけないとするとどんどんコストが上がる。

一方、反対側の資産の国債についている金利、クーポンは決まっている。非常に低い金利のクーポンばかり日銀は買っている。そんな中で反対側の当座預金の金利水準だけが上がってくると、逆ザヤになり、バランスシートが大きい分だけ、逆ザヤが膨らむ。単純化して500兆円と考えると、1%逆ザヤになったら、5兆円飛んで行く。イングランド銀行は、大きくなり過ぎたのを、できるだけ小さくしようとしている。それで国債も売っている。

今物価上昇を止められていない。物価上昇を止めなければならない、と言うことになったら、普通、消費者物価が2%になったら、短期金利を2%に誘導してやっと中立的になるので、当座預金に対する付利を2%にしなければ、このインフレを止められないかも知れない。

長期国債の収入は、0.2%しかない。1.2%の短期金利を上げるだけで1%の逆ザヤになる。500兆円に対して、年間5兆円のコストがかかる。

日銀の自己資本は11兆円しかないから、5兆円が2年で、11兆円はほとんど飛んで行く。2%なら、1年で日銀の自己資本は使い切ってしまう。それ以上物価上昇が続けば、単年度赤字だけでなく、債務超過になる。

過去には物価上昇が3%、4%の時もあったが、今、なぜ利上げしないかと言えば、日銀は自分の財務を悪化させたくないから利上げをしないのではないか。その結果、円安も止まらないし、輸入物価が上がるし、ガソリンの価格も上がるし、消費者物価全体に跳ね返って来て、物価上昇がほったらかしになっている。

物価がこのまま進んでいくと、さすがに日銀も最後には、このまま放っておくわけにはいかない。賃上げと、物価上昇の好循環になれば、債務超過になる。そんなことは分かっていたのに、黒田総裁は時期尚早と言って、事実上逃げて来た。

<明日に続く>