知りたい、ハーバード大学のポートフォリオ
基本方針は、多様な資産クラスへの分散投資を通じて、長期的に安定したリターンを追求します。なかでも、オルタナティブとも呼ばれる「代替資産」への投資割合が高いことが大きな特徴です。
ハーバード大学基金の運用資産配分状況(2024年6月末時点)
2024年の基金の運用状況の中身において、上場株式、債券といったいわゆる伝統的な資産の割合は25%にとどまります。
では残りの75%は何に投資しているかというと、ヘッジファンドや、未公開株とも呼ばれるプライベートエクイティなど、「これまでの伝統的な資産に代替される新しい対象先」に投資をしています。
なぜこのような投資手法を取っているのでしょうか?それはリスクの分散を徹底するためです。
かつて株式と債券は反対の推移をする時代が長くありましたが、2008年に起きたリーマンショックでは、株式も債券も同時に大きく下落しました。そのような局面でも安定的なリターンを実現するべく、これらの資産とは異なる値動きをする投資対象を資産運用先として組み入れることで、リスクを管理しています。
ハーバード大学基金の残高と年率リターンの推移
基金では、リーマンショックが起きる直前の2008年6月末当時、伝統的資産が運用資産額に占める割合は4割を超えていました。秋にリーマンショックが起き、この年度のリターンは-27.3%と大きなマイナスを記録しました。その後は、リスク分散のために代替資産への投資を増やしたことなども影響してリターンはおおむねプラス圏の領域で推移、2024年のリターンは+9.6%となりました。
基金の2000年から2024年までの25年間の平均リターンは+9.7%、残高は191億ドルから532億ドルへと2.8倍に増えました。
そしてこのハーバード大学基金からの大学への資金配分は、2024年においては大学が必要とする1年間の予算、約64億ドルの内の約37%を占めており、授業料や研究による収入を抑えて、大学を支える最大の収入源となっています。
このようなハーバード大学基金の「徹底した分散投資」の方針は、個人投資家にとっても参考になることがありそうです。
米大学基金の運用
政治イベントを通過し、短期的な期待値とともに相場が変動していますが、「ポートフォリオのすすめ」では改めて中長期運用における参考として、今回は米大学基金の運用について紹介したいと思います。
アメリカの大学では卒業生などから寄付された資金を運用し、財政基盤を強化しています。エンダウメント投資と呼ばれ、北東部の名門8大学で構成されるアイビーリーグの運用成績が比較されたりしますが、各校の会計年度は6月30日締めとなっており、この時期に年次報告が公開されます。
2024年度の成績では、コロンビア大学が11.5%のリターンでトップ、プリンストン大学が3.9%で最下位となりました。この違いは、各大学の資産配分と投資戦略に起因します。コロンビア大学は比較的リスク許容度が高く、テクノロジー株の上昇など市場変動に敏感に反応する投資を行ったことが高リターンにつながりました。
一方、プリンストン大学はリスク調整後リターン(リスクを考慮した収益効率、シャープレシオなど)を重視し、保守的かつ安定志向の運用を行っています。プライベートエクイティや不動産などの私募市場とヘッジファンドへの配分が多く、短期のリターンは抑えられる傾向にあるものの、長期的には安定したリターンを出しています。
過去10年の長期リターンを比較すると、プリンストン大学は年平均9.2%と堅調で、コロンビア大学の同7.4%上回る優秀な成績を示しています。流動性の低い資産クラスを含む幅広い投資は、換金が難しくなる半面、長期的には市場平均を上回るリターンが期待され、株式・債券等伝統的資産クラスに対してリスク分散する投資であり、イェール大学基金が採用することからイェールモデルとも呼ばれます。
コロンビア大学はグローバル株式に24%配分していますが、プリンストン大学では12%にとどまり、その他私募市場に多くの配分がされています。
最大規模の基金であるハーバード大学の運用でも長期的な視点に基づく持続可能な資産運用、多様な資産クラスへの分散投資に加え、どのようなリスクをどの程度とるのか、全体のバランスはどうか、といったリスク管理が徹底されています。なお同大学の運用でも上場株式の割合は14%と少ないです。
米国のプライベート市場は日本よりも規模が大きく取引が活発です。またプライベート投資には大規模の資金が求められることも多く、日本の個人投資家にはアクセスが難しい部分もあります。日本でもプライベート市場の拡大が待たれる一方で、運用における長期視点やリスク管理の重要性は参考になるでしょう。
【各基金のアロケーション】
・コロンビア大学
ヘッジファンド30%、プライベートエクイティ26%、グローバル株式24%、実物資産14%、債券・キャッシュ7%
・プリンストン大学
先進国株式12%、新興国市場8%、絶対リターン24%、プライベートエクイティ30%、実物資産18%、債券・キャッシュ8%
・ハーバード大学
上場株式14%、ヘッジファンド32%、プライベートエクイティ39%、不動産5%、その他実物資産3%、債券・キャッシュ8%
各運用体が開示した最新の情報に基づき筆者が作成したもの。カテゴリーの定義は各運用体によるものであり、また比率合計が100%に合致しない場合もあります。
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)
令和4年9月
(1)資産構成
令和3年度末の運用資産額は51,186億円であり、その資産構成割合は下図のとおりです。グローバル債券が54.6%(27,963億円)、グローバル株式が4.1%(2,074億円)、短期資産が41.3%(21,149億円)という状況でした。
令和3年度は、運用を開始した3月時点において、世界的なインフレの進展やウクライナ情勢等で先行きの不透明感が強い市場環境であったことを踏まえ、慎重に投資を行ったことにより、グローバル債券や短期資産の比率が高い資産構成となりました。