植田和男日本銀行総裁 VS プリンストン大学清滝信宏教授

このブログでは、国債残高の膨張を繰り返し問題にしてきましたが、安倍元首相がいなくなり、岸田首相に代わってから、少しずつ風向きが変わってきたように思います。金利を自由な姿に戻すことによって、日本の放漫財政の姿が、かすかに見え始めたように思います。

以前から、日本の債務残高を問題視してきたプリンストン大学清滝教授が経済財政諮問会議に加わり、現在の金融緩和策を批判してくれたのですから、早く日本国民、メディア、政治家が現在の異常事態を直視すべきです。

2023年6月15日YAHOO!JAPANニュースを見てみましょう。


「大規模緩和」をどうする?

今日(6月15日)から2日間にわたって行われる日銀政策決定会合だが、マーケットは概ね「大規模緩和の継続」を予想している。

筆者もその見通しには同意するが、ちょうどひと月前の政府・経済財政諮問会議で今後の植田和男日本銀行総裁の政策に大きな影響を与えるのではないかと感じるやり取りがあった。

すでに為替相場は1ドル140円に定着しつつある。秋口に収束すると見られていた日本のインフレは、年末にかけても3%台という高水準を維持するという懸念が高まっている。

国民が日々、値上がりする食料品や生活必需品に恐々とするなか、経済財政諮問会議でのやり取りは、植田総裁の心中を大きく揺さぶったに違いない。

その中身を詳しくお伝えしていこう。

世界レベルの「知性」が噛みついた!

植田総裁に大きな影響を与えた(と、筆者が勝手に考えている)経済財政諮問会議は5月15日に開かれたが、実はここに2人の世界的に著名な経済学者が出席した。

一人は言うまでもなく植田総裁であるが、もう一人はプリンストン大学の清滝信宏教授だ。

その清滝氏が植田総裁に噛みついたのだ。

諮問会議の席上で日銀の政策と対立する意見を披露したから、その場の空気は凍り付いたことだろう。

清滝教授は、未だ日本人の受賞者のいないノーベル経済学賞に最も近い日本人と言われている世界トップレベルの経済学者。植田総裁も世界標準の経済学を熟知する日銀初の経済学者の総裁として注目をされたが、そのアカデミズムでのライバルが清滝教授と言える。

植田総裁は74年に東京大学理学部を卒業後、経済学部に学士入学しており、75年の経済学部大学院の入学を経て、80年に米マサチューセッツ工科大学経済学部大学院でPh.D.を取得した。

一方の清滝教授も78年に東京大学経済学部を卒業し、85年にハーバード大学で博士課程を修了している。

大規模緩和は「しばらく継続」です…

会議では、まず、委員として出席していた植田総裁が経済・物価情勢などの説明を行い、その後、有識者の1人として清滝教授が意見陳述を行った。

植田総裁は物価の見通しについて、「現在は2%を上回っているが、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰していくもとで、今年度半ばにかけて、2%を下回る水準までプラス幅を縮小していく」とした。つまり、これまで通り秋口から物価は下がっていくという見通しを示したわけだ。

さらに「その後、消費者物価の基調的な上昇率は、2%の“物価安定の目標”に向けて徐々に高まっていくと考えているが、それには時間がかかる」と述べた。

その上で、多角的なレビューを行い、1年から1年半程度の時間をかけると、大規模緩和を継続した4月の政策決定会合の決定内容を説明した。

あまりに大きな影響力を持つ日銀総裁らしい慎重な発言である。

これに対して、清滝教授が行った発言は植田総裁の発言を否定するものだった。

その中身については、後編記事『その時、現場は凍り付いた…! 植田日銀総裁に「経済学の大天才」が噛みついた! その「空気よまない直言」のヤバすぎる中身』でじっくりお伝えしていこう。


 

次に、後編記事を2023年6月16日YAHOO!JAPANニュースで見てみましょう。


ライバルの直言は「緩和はさっさとやめろ」

5月15日の経済財政諮問会議に出席した植田総裁は、物価の見通しについて、「現在は2%を上回っているが、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰していくもとで、今年度半ばにかけて、2%を下回る水準までプラス幅を縮小していく」とした。

つまり、これまで通り秋口から物価は下がっていくという見通しを示し、対規模緩和を継続した4月の政策決定会合の内容を改めて説明した。

これに対して、経済財政諮問会議に有識者の1人として出席した清滝教授は、植田総裁と真っ向から対立する意見を出したのだ。

清滝教授は、世界経済の現状を「インフレが進行しており、欧米では政策金利の大幅な引上げにもかかわらず、2%を超えるインフレが数年は続くと予想されている」とした上で、日本についても「円安と輸入物価の高騰から、目標値を超えるインフレが続いている」と分析。

その上で、たとえ物価が植田総裁の見通し通りに1~2%に下がったとしても「インフレ率が1~2%程度に定着すれば、量的・質的緩和は解除すべきである」と指摘した。

植田総裁が量的緩和の解除に慎重なのは、国内で金利が上がりはじめれば日本国債を大量に保有する金融機関に含み損が発生し、アメリカのシリコンバレー銀行のように経営難に陥る地銀が出かねないという懸念もあるからだ。住宅ローンを組む多くの人にも大きなダメージとなりかねない。

低金利に慣れ切った今の日本で金融政策を正常化すると、大きな痛みを伴いかねないのだ。

しかし、グローバル標準の経済学者である清滝教授は、発言がたちどころにマーケットに影響する植田総裁と違って、なれ合い的な“日本の空気”など気にする必要などないのだろう。

長期的な視野に立って、最適であろう経済学の知見とセオリーをストレートに述べて「緩和は、さっさと解除しろ」と指摘したのだ。

もう「大規模緩和」の効果はない?

ちなみに、清滝教授がノーベル経済学賞に最も近い日本人と言われるゆえんは、1997年に日本のバブル崩壊を説明する「清滝・ムーアモデル」を英経済学者のジョン・ムーア氏と共同で示したことによる。この理論は、リーマンショックでも実証され、金融危機の対応にも貢献したという。

日本のバブル崩壊では、土地や株などの資産価格が暴落した。銀行は不動産などを担保に融資をおこなうが、担保価値が下がることで金融機関の融資もまた停滞する。これが不況を招き、さらに資産価値が下落するという負のスパイラルが不況を長期化させる。

これを精密に分析して解明したのが「清滝・ムーアモデル」で、「失われた20年」とか「失われた30年」と言われる日本の長期停滞を言い当てた。

日本停滞の根本原因を知り尽くす清滝教授だけに、経済財政諮問会議で次のような苦言も呈している。

「量的・質的金融緩和は持続的成長につながらない」
「1%以下の金利でなければ採算が取れないような投資をいくらしても経済は成長しない」

つまり、量的緩和による低金利は、生産性の低い投資を企業に促し、逆に収益体質を脆弱化している、そのため、むしろ“デフレになりやすくなっている”と言うのである。緩やかなインフレを目指した大規模緩和をこれ以上継続する効果に疑問符を付けたというわけだ。

ライバルの経済学者の直言は、同じく経済学のセオリーを知り尽くす植田総裁の政策にこれからどのように影響するだろうか。

さらに連載記事『業火は日本の金融界にも飛んでくる…! 米銀破綻が経営を直撃しかねない「危ないニッポンの銀行」の実名』では、日銀の政策変更も影響しかねない金融機関の実態についてお伝えしていこう。